7 西国寺三重塔(広島県尾道市)

西国寺三重塔(広島県尾道市

 「あれも、本ばよう読みよるで、どこかきまったりゃ、学校さあげてやりたか。」
 「明日、もう一日売れたりゃ、ここへ坐ってもええが・・・・・・」
 「ここはええところじゃ、駅へ降りた時から、気持ちが、ほんまによかった。ここは何ちゅうてな?」
 「尾の道よ、云うてみい」
 「おのみち、か?」
 「海も山も近い、ええところじゃ」
 母は立って洋燈を消した。
                              (林芙美子「風琴と魚の町」より) 
 林芙美子は、行商を営んでいた宮田朝太郎と林キクの間の婚外子として生まれた。その後キクが朝太郎と離別して、沢井喜三郎と結婚すると、家族3人で行商を営みながら、九州各地や中国地方を転々とする。最終的には、海産物の集散地として非常に活気のあった港町尾道に落ち着く。尾道尋常小学校、高等女学校を卒業するまで、12歳から18歳までの多感な少女時代を尾道に暮らした。JR尾道駅より徒歩数分のところに林芙美子像が建つ。
 尾道は、この林芙美子のほか、志賀直哉などが居を構え、尾道を舞台とした作品を発表している。また、映画では、小津安二郎監督の「東京物語」、大林宣彦監督の「転校生」など尾道三部作が撮影された。街は、北側は山、南側は海であるため平地が少なく山肌に住宅が密集している。「文学の街」、「映画の街」、「坂の街」としてつとに有名である。
 また、西国寺、天寧寺、千光寺、浄土寺など多数の寺があり、寺の町でもあり、市内の寺院を散策するため石畳で舗装された古寺巡りの道がある。
 国道2号を歩いて天寧寺を過ぎ、千光寺公園ロープウェイ山麓駅を通り過ぎるとまもなく西国寺の参道に辿り着く。西国寺は、奈良時代行基が開創したという真言宗醍醐派大本山である。伽藍の規模は西国一という意味をこめて西国寺と名付けられた。鎌倉時代以来の堂塔が並び、金堂、三重塔が国の重要文化財となっている。
 西国寺のシンボル、長さ2メートルの大わらじの吊るされた桃山時代に造られた仁王門をくぐり、百八段の石段を登ると、金堂、三重塔、大師堂が見えてくる。いずれも室町時代に建造されたものである。
 特に三重塔は六代将軍足利義教がその造営勧進の際に証判を与え、永享元年(1429)建立された。建築以来550年間災禍に遭うことなく今に至っている。高さ22.3メートル、ほぼ純粋の和様構造物、境内最後部の高所に立ち、遠くからよく見える。
 尾道は、海岸線沿ってわずかに平地があるが、山と平地との境に国道2号と山陽本線が平行して走っている。山陽本線の北側は急斜面となる。その急斜面に急勾配の坂や石段が取り付いている。文学公園もそんな山陽本線の先の急な階段を登ったところにあり、志賀直哉の旧居や文学の館がある。