27 西方寺五重塔(宮城県仙台市)

西方寺五重塔宮城県仙台市
 西方寺は、地元では、「定義如来(じょうげにょらい)」と呼ばれ、庶民信仰の祈祷寺院として親しまれている。仙台市青葉区といっても、平家落人の集落にふさわしく、ほとんど山形県に近い山ふところにある。
 平家滅亡のとき、平重盛の遺命により阿弥陀如来の画像宝軸を託された、その重臣の平肥後守貞能は、名前を定義(さだよし)に改め、落ち武者となってこの地に隠れ住んだ。貞能没後、従臣らが墓上に小さな堂を建てて、尊像を定義如来として祀ったことに由来する。その後、宝永3年(1706年)、従臣の子孫の早坂氏が出家し、その尊像を本尊として極楽山西方寺を開創した。
 浄土宗の寺に珍しく祈祷が行われるが、行われるようになったのは、まだ近年のことで、地元漁師が定義如来に願を掛けたところ、網は流されることもなくなり、大漁であった、これ以来、大漁の感謝をこめて定義如来に手を合わせたのが祈祷の始まりという。その後、霊験あらたかな定義さまに地元漁師、農家の人々が大漁や豊作を願い、また、子授けや、安産を祈願し、多くの参拝者でいつも賑わっている。
 門前の定義とうふ店には、参詣を終えた人々が列をなし、店内、店外では、大勢の人が、名物の出来立ての三角あぶらあげに醤油とトウガラシをかけて食べている。香りに誘われて食べた三角あぶらあげは、表面パリっと中はシュワっと冷えた体においしくしみ込んだ。
 境内は、旧本堂地区、新本堂地区に分かれ、五重塔は、新本堂の右側にある。昭和61年(1986) に建てられた比較的新しい塔である。すべてが青森ヒバで造られており、高さは、約29m、宮城県初の五重塔である。各層の屋根は冬の青空に反り返り、前面の庭園を覆った雪の白と塔身の古さびた茶とあいまって、素晴らしい眺めである。
 この青葉区には、青葉城址を囲み東北大学の植物園がある。ここには、サクラの希少品種であるセンダイヨシノが植栽されている。センダイヨシノは、ソメイヨシノの満開期を過ぎる頃から咲き始め、花梗が長く、下に垂れて咲くため、優美な雰囲気が特徴。
 このセンダイヨシノは、江戸末期、埼玉県神川町で生まれ、植物学者として活躍し、牧野富太郎博士とも親交の深かった坂庭(さかば)清一郎氏が、宮城県師範学校の教諭であった1900年にヤエベニシダレとソメイヨシノを交配し、作出した品種である。原木1本から分けられた苗がこの植物園に1本、また坂庭氏が師範学校退職後を過ごし、また、氏のお墓がある熊谷市の徳蔵寺に1本など、10数年前には、確認できるものが6本程度であった。(飯島一「桜仙物語」2000年発行)
 現在、宮城県柴田農林高校のバイオ研究班が育苗し、市内の公園や近隣の町などに植栽を進め、2008年にも、同市太白区の公園で市民をまじえ苗木の植え付けが行われ、地元紙にも「希少な桜『仙台吉野』里帰り」と報道された。一方、熊谷市においては、「サカバザクラ」の名称で市内の文化会館など公共施設への植樹が進められている。
 戦後、学校、公園、堤防など、桜といえばソメイヨシノと、ソメイヨシノの植樹が進み、ソメイヨシノ一色に染められてしまったが、こうした地域ゆかりの桜など、多様な桜の植栽が進み、時期様々に、色様々に咲いてほしいものである。